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2区画以上はある緒方家の広い墓は月に一度は清掃が入る為、草も生えておらず、綺麗だった。
忍は花を差し替え、線香を灯すと黒く光る大理石の大きな墓石の前に屈み、手を合わせ、目を閉じた。
紗羽は、忍達兄弟の母・奈緒の、年子の姉だった。
忍は奈緒が18歳の時に生まれ、紗羽は伯母とはいえ19しか離れていなかった。
出産後、奈緒は婿となった和也とともに父、大介の会社で働き始め、いつも忍の傍にいてくれたのは身体が弱かった為に家でずっと養生していた紗羽だった。
紗羽は忍にとって、姉のような母のような……そんな言葉では語り得ない、大事な女性(ひと)だった。
彼女は今でも消える事なく忍の中に、ひっそりと息づく。
それは、幼くして母を亡くした者が、美しい母の姿を引きずり続けるのに似ていた。
緒方家の広い墓地を取り囲むように曼珠沙華が咲いていた。彼岸を過ぎた頃から咲き始める、妖しくゆらめきながら群生する赤い花。
その中に、毎年必ず一輪だけ白い曼珠沙華が咲いた。
艶やかな赤の中の密やかな純白。
今年も、まるでこの家を見守るかのように静かにひっそりと咲いていた。
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