遠い記憶

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「緒方先生、佐野教授がお呼びです。ひと段落したら教授のお部屋に来なさい、と……」  かなりの無理を申し出たからな、と忍は苦笑いした。  つい先頃、佐野教授に無理強いして押し付けた患者が、無事にオペを終えてICUに戻って来た。 忍の見立てに寸分に狂いも無く、オペはスムーズに進行し成功したとの事だった。  術後の容体も安定し、患者の家族への説明は教授の助手が努めていた為、忍にとって今は束の間、手が空いている貴重な時間だった。 忍はポケットからメモを取り出しサラサラと要件を書き込み、それを看護師に渡した。 「今のうちに佐野先生のところに行ってくるから少しの間席を外す。 俺の担当してるクランケの注意点を書いておいた。 皆に伝えてくれ」  若い看護師は、はい、と言いながらメモを受け取ったが、不安気な表情を見せていた。 「すぐ戻る」  とだけ答えた忍は身を翻し颯爽とした身のこなしでそこから立ち去った。 看護師はまるで見惚れるかのようにその後ろ姿を見送った――。  
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