遠い記憶

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「よぉ、色男」  忍がオペ室の近くに差し掛かった時、前から歩いて来た萌葱色のメディカルウェア姿の背の高い医師が手を挙げた。  忍の医学部時代の同期生で現在は脳外科のエースと言われている館山賢吾。 彼は、早足だった歩みを緩めた忍と並び、歩きだした。 「さっきのオペのクランケ、お前も迎えに来たろ。 うちのオペ看達が大騒ぎだった。 相変わらず一世一代の色男だぜ」  キシシと笑う賢吾に忍はフンと鼻で笑い返した。 「色男って言葉、死語だろう」  そうか? と賢吾は頭の後ろで手を組んだ。  野性味溢れる好男子といった風貌の賢吾は、洗練された貴公子のような忍とは正反対のタイプだが、長身の二人が並び歩く姿はいつも人目を引いた。 その容姿のみならず、能力も抜きん出ていた彼らは、学生時代からツートップと称され、周囲から期待されてきた。 忍は心臓外科、賢吾は脳外科、に進むと思われていたのだが――。
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