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「綾子先生、お帰りですか」
呼ばれ、振り返った女性、辻綾子は、あら、と明るい表情を見せた。
「そうなの、でも今出たら、傘壊れてしまいそうで……どうしようかしら、って思っていたの。
忍君もこれから帰るところなのね」
忍は、ええ、とたげ答え、ガラス扉を少しだけ開け、そこから顔を出して空を見上げた。
真っ暗な空は、雨粒を落としながら、ごうごうと唸りを上げていた。忍の広い背中を見、綾子はフフと笑った。
「忍君、またパパとやり合ったらしいわね」
「相変わらずお耳が早い……」
振り向き、綾子を見た忍は苦笑した。
綾子は、あの心臓外科の辻教授の娘だ。
忍はその事を知った上で綾子との関係を続けているが、忍と綾子の関係を知る者は院内にはいなかった。
「教授とやり合った、と言うのは少々語弊がありますね。
僕は一方的に黙らされた、と思っていますが?」
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