胸騒ぎ

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 美羽は受話器を持ったまま暫し立ち尽くしていたが、家を揺らす程の一際強い風の音にハッと我に返った。 今やってしまわないと雨も風も、もっと強くなるだろう。  受話器を置いた美羽は、自室に駆け込み洋服ダンスに掛けてあったレインコートを着ると、風に煽られ暴れる雨が降りしきる、真っ暗な外へ懐中電灯を持って出て行った。 * 「すみません、学生の時には居合わせた事があるんですけど研修医になってから実際に自分の担当するクランケが……というのは初めてで……」  一時間前に発作を起こした患者の容体が安定し、忍と研修医の斉藤はナースステーションへ戻ってきた。 ナース達が申し送り等に使用している大きな作業台で、電子カルテに移行出来ない古参患者の分厚いカルテファイルに黙々と書き込みをする忍の隣に立つ斉藤は項垂れていた。 「言い訳はいい。 クランケのカルテを隅々まで読んでいれば不測の事態に対応できる筈だ。 お前はまだ読み込みが足りない、とい事だ」  いつにない忍の厳しい口調に斉藤はますます肩を落とした。 忍はカルテから顔を上げることなく言葉を継いだ。
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