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「次に繋げればいい。そんな事の積み重ねだ。
失敗は今のうちに沢山しておけばいい。
その為に研修医にはフォローする為の指導医がついているんだからな。
ただ、重ねた失敗は必ず全て覚えておく事だ。
医師の失敗は時として、決して許されないものがある。
全ての行為に責任が持てる医師になる事だ」
忍の言葉は、身体の芯にズシンと届く重たい響きを持っていた。
心の奥深くに浸み込む言葉に斉藤は、今、自分が目指すものの重責を、改めて思い知らされた。
言葉も発せられず、すっかり沈み込んでしまった斉藤に、忍は柔らかな視線を向けた。
「俺だって研修医の時はおろおろし通しだった。
誰だってそんな時期を通るんだ」
フォローも忘れない忍の優しさに斉藤はパッと顔を上げ、はい! と答えていたが、傍らで見ていた佐倉はそっと肩を竦め、うそつけっ! と心の中で叫んでいた。
恐ろしく肝の据わった洞察力の鋭い研修医が周りの医師達を常にビクビクさせていた事は、今でも同期の間で語り草となっている。
そんな事は知らない今の研修医達。
こんな切れ者の医師も自分達と同じ時期があったのだ、という言葉が大きな励みとなり――
「同じ失敗はもう絶対しません!」
泣きそうだった顔を明るくした。
嘘も方便か、と佐倉は息をつき、二人のやり取りを見守っていた。
もしかすると、あの頃の彼は表情筋が乏しいだけで案外内心はおろおろしていたのかもしれない。
そんな事を思いながら立ち上がった佐倉は言った。
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