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誰も取ることなく切れてしまった電話。
携帯を持ったまま、忍は窓の外を見た。
戸外は、今から帰るのが危ぶまれる程の強風と雨。
ここから見える、大学部の庭の植え込みが折れそうなくらいにしなっていた。
家に、誰もいないのか? 忍の胸を不穏な影が覆う。
父や祖父、母ならともかく、こんな日に美羽が出かける事は考えられなかった。
美羽の携帯にも掛けてみたが、彼女が出る事はなかった。
電話にでられない理由など、いくらでも考え得るが、胸を覆う不穏な影は拭う事は出来なかった。
急いで帰ろうと携帯をしまった忍が職員用の通用玄関に来ると、そこに外を見つめ立ち尽くす女性の後ろ姿があった。
薄暗く、誰もいない職員用通用口で、女性は傘を手に佇む。
今外に出るべきか、少し待つべきか、考えているようだった。
その、後姿さえも美しく麗しい女性が誰か、は忍には一目で分かった。
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