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不敵に笑い、そう答えた忍に、いやだわ、と綾子が笑う。忍が空けていたドアの隙間から吹き込んだ風が、綾子の長い髪を揺らしていた。
「よく言うわね。
ハブ対マングースの睨み合いみたいで周りにいた他の医師達がみんなブルって口も利けなかったって聞いてるわ。
生きた心地しなかったらしいわよ」
そんな事は無いでしょう、と言い、ハハハと笑った忍は、吹き荒れる風と横殴りの雨の中、一歩外へ踏み出た。
開けられたドアから一気に雨を含む風が中へ吹き込んだ。
それを見、髪の毛を押さえた綾子が慌てて言う。
「忍君! 今少し待った方が良さそうよ!」
綾子は忍の背中にしがみつくような形で彼を止めた。
戸口に吹き込む雨が二人を濡らした。
「待って、お願い」
綾子は、忍の身体にしがみついたままその背中に顔を埋めた。
今夜は何故か、この、彼の身体を掴む手を離したくなかった。
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