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「気を付けて帰ってください」
それだけ言うと、忍はドアを開け、降りしきる雨と強風の中に姿を消した。
取り残された綾子は、肩に掛けられた忍のジャケットを両手で大事そうに掴み、前を合わせた。
自分の身体をすっぽり包んでしまう大きなジャケットを、そっと顔の前に持っていくと、忍の残り香が鼻先を掠めた。
その香りが、綾子の胸を切なく締め付けた。
*
温室になっているガラス張りのハウスは庭の南側に建っていた。
プランターが置かれた場所からそこまでは20メーターくらい。
水を含み重くなったしまったプランターを抱えて美羽はハウスまでのその距離を何往復もしていた。
激しい風雨に晒されたレインコートは撥水効果を失い、雨は中まで染み込んでいた。
濡れた衣服は身体に張り付き、次第に美羽の体温を奪っていく。
8個目のプランターに手を掛けた時には芯から冷え切った美羽の身体が震えだしていた。
手に力が入らない。
泣きたくなりそうな気持ちを奮い立たせ、美羽はプランターの縁に掛けた指に力を入れたが……。
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