何の為に

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「ああっ!」  持ち上げた瞬間、手が、身体が、別の人間の意識のようになっていた。 力の入らなかった指からプランターが滑り落ちた。  ゴトン! ばしゃっ! という音を立てて大きなプランターが水面のようになった地面に落ちた。 中から土がこぼれ、拡がる。 「大変!」  美羽は、慌てて屈み、散らばってしまった土を手でかき集め始めた。 長い髪が、顔の前に垂れた。 雨に濡れて水がしたたり落ちる髪は風に吹かれ、顔に張り付く。 水分を含んだ重い土は美羽の指から容赦なく熱を奪っていった。 感覚がなくなり、動かなくなってしまった指を見た時、 「もう……いやだ……」 美羽の気持ちが、折れた――。  それまで堪えていたものが一気に噴き出すが如く堰を切ったように溢れ出した涙が、地面に突いた両手にボロボロと零れ落ちた。 一度溢れだした涙は次から次から止めどなく流れてくる。
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