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ナースステーションを出入りする看護師達が話す会話が時折聞こえる。
「今日の外出はお気を付けください、みたいな事ニュースで言ってたわね」
「うん、もう既にすごい風。電車とか、止まっちゃうかも」
「私は泊まりだからいいけどー」
パソコン内のカルテを見ていた忍は、そんな彼女達の会話を聞きながら、ふと家の事を思い起こした。
風と、雨。
あの、母が紗羽の事を疎ましげに話す姿を見てしまったのも、季節こそ違えど、嵐の日だった。
微かな不穏が、忍の胸を過った。
今日は、どうしても帰らなければいけない気がした。
シフトでは夜勤明けとなっており、本来なら日が暮れる前に帰っても問題は無い。
とりあえず目の前の仕事を片付けてしまおうと、忍はパソコンのディスクトップ上のカルテと傍に置かれていたファイルを見比べ、隣にいたモサモサ頭にメガネの同僚医師、佐倉に声を掛けた。
「さっきお前に聞かれたこのクランケ、心カテでイケるんじゃないか。
絶望的に狭窄しているのはRCA(右冠動脈)だけだろ」
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