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あの時、美羽が他人だったなら、迷わず他の医師に即応援を要請できた。
美羽が、身内だったが為に、手の離せない医師達に忍は「助けてくれ」と訴える事が出来なかったのだ。
どうして自分はあの場にいてしまったのだろう。
あのタイミングで自分があそこにいなければ。
それよりなにより、ほんの少しでもタイミングがずれていれば、コードブルーで医師が出払ってしまう前に美羽の処置に当たれる医師が確保できていたのに。
忍は、その境遇を恨むよりも先に、行動に出た。
「彼女のカルテを持って来てください!」
そう言いながら上着を脱ぎ、傍にあった椅子に掛けた忍はナースステーションから飛び出した。
美羽の身体は、むくみが進んでいた。
心電図モニターの警報音は止まらない。
「どうしてこんな……」
彼女に投与される無数の点滴一つ一つを確認した忍は言葉を失った。
この投薬の意味するところは、美羽は一時も目の離せない予断を許さない状態だったということ。
聞けば、午後ベッドが空く、というICUに移動できる予定だったという。
それには必ず医師の立会が必要だ。
なぜ、この状態の患者がいる事を知りながら、医師達は――?
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