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あの時、忍はまだ初期研修を終えて間もない、駆け出しの医師だった。
美羽の容体は、忍の処置でその時は事なきを得たが、彼はあそこで診断ミスも犯していた。
それが後の美羽の人生を大きく変えてしまう要因となってしまった。
後に分かった事だが、コードブルーの患者は、県会議員の妻だった。
そこに、医師達が抱えていたそれぞれの思惑が見え隠れしていたのだが、一歩間違えば重大な医療過誤に繋がりかねなかったこの一件で、糾弾されたのは忍一人だった。
あの状況をたった一人で乗り切ろうとするなど、奢り以外のなにものでもないと、忍は教授会で厳しく断罪された。
忍の能力を高く買っていた数人の教授、とりわけ恩師の循環器内科の原教授が何とか事態を丸く収めようと働きかけてくれたが、お咎めなしでは示しがつかぬ、という結論に至り、即、北海道の分院へ飛ばされた。
その後各地を転々とした忍が、本院へ戻って来られたのは、2年後の事だった。
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