56人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
今でも胸に残る苦い記憶に、忍は眉間を押さえた。
犯したミスも去る事ながら、事が公にならず、もみ消されるように沈静化したのは、患者が当事者の身内だった事によるものが大きい。
それはあまりにも皮肉すぎる。
瀕死の状態で眠る美羽を目の当たりにした瞬間、忍の脳裏に紗羽との約束が蘇った。
彼女が残した掛け替えのない宝物。
このままでは失う。
そんな事は決してさせない。
あの時、そんな想いが脳裏に目まぐるしく交錯していた。
しかし、自分はあの時、あまりにも未熟だったのだ。
全ては、自分の責任――。
「ごめんな、美羽……」
柔らかな長い髪を撫でていた忍は、紅色を取り戻した彼女の唇に、静かにキスをした。
忍は考える。
これ以上踏み込むのは、危険だ、と。
抜けられなくなる。戻れなくなる。
ならば、突き放す――!
嫌うよう、仕向ければいい!
最初のコメントを投稿しよう!