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「美羽から聞いたんじゃねーよ!
美羽見てりゃ分かるんだよ。
あんなに天真爛漫だったアイツが高校に入ったあたりから母さんの顔色ばかり窺うようになった。
俺も誠もずっと分かってたんだよ。
でも美羽は何にも言わねーし……」
もっともな核心を突く篤の言葉に奈緒は黙り込んだ。
‘いじめ’をする子供の心境が分かる、奈緒はそんな事を稀に考えた。
恐らく、何処かで誰かに止めて欲しい、そんな気持ちがほんの僅かでもある子はいるのだろう。
しかし、対象である子が誰にも言わずに堪え、いじらしければいじらしい程、止めて欲しいという小さな良心は薄れていくのだ。
奈緒はこめかみを押さえ、目を閉じた。
黙る奈緒に一息ついた篤は続けた。
「とりあえず、美羽はあんな身体なんだ。
何が気に入らねーんだか知らねぇけどさ、小さい頃はあんなにかわいがってたじゃねーかよ。
昔の事思い出して美羽を大事にしてやってくれよ」
最後の言葉は、奈緒の感情を逆撫でするものだった。
確かに、息子しかいなかった奈緒にとって、たった一人の娘として美羽をかわいがっていた時期はあった。
それは、いずれちゃんとしたところに嫁にやるつもりで大事に育ててきたのだ。
それなのに、美羽は――。
切れた電話を握り締め、奈緒はギリと奥歯を噛んだ。
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