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叩き付けるような雨音は穏やかな音に変わり、風も微かに窓ガラスを揺らす程度の強さとなっていた。
台風がこの辺り一帯からは去った事が窺えた。
今の風雨は名残の風雨のようだった。
静まり返る家の中で、時計の音だけが聞こえる。
リビングに置かれた古い大時計の、時間を知らせる鐘がゴーンと一回鳴っていた。
「1時か……」
ベッドから身を起こした忍は枕元のライトを点けた。
そして、腕の中で眠る美羽の頬に手を添え……そのまま首筋に触れた。
数時間前まで低体温症になりかけていた彼女の身体にはすっかり体温が戻ってきていた。
安堵の息を漏らした忍は、美羽を抱えたまま身体の向きを変え、手を伸ばし、ベッドサイドに置かれたチェストの引き出しを開けた。
真新しい長方形の箱を取り出した忍は片手でその蓋を開け、そこに入っていたまだ新品の聴診器を手にした。
そして、美羽の左腕をそっと取った。
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