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透析患者の腕に埋め込まれている‘シャント’という血管は、命綱。
簡単に言えば、動脈と静脈を繋ぎ合わせ、血液の流れを別に作り、透析をスムーズに行う為のもの。
その血管の中の血流には常に気を付けなければいけない。
透析をしている者は皆、自分専用の聴診器を持ち、シャントに流れる血液の音をチェックしている。
忍は聴診器を、美羽の埋め込み手術の跡が残る腕に当て、その音に耳を澄ませた。
ザーッという滝のような強い流音が滞りなく聞こえ、彼は、ふぅ、と小さく息をついた。
雨が止み、風が空を洗う。カーテンが開け放たれたままだった忍の部屋の大きな窓からは、雲の晴れた宵の空が見えた。
細い月が頼りなげに浮かぶ。
その微かな月明かりとベッドサイドのライトの小さな明かりの中に映し出される美羽の顔を見た忍は、安堵の表情を見せ彼女の柔らかな長い髪をそっと撫でた。
数時間前、風雨に晒され横たわる美羽を見つけた時忍の眼前に、4年前の悪夢が蘇った。
沢山の管に繋がれ眠る美羽を見た時の感覚が、鮮明に――。
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