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4年前の秋。
初期研修医の期間が明け、福岡の分院に行っていた忍だが、半年足らずで本院に呼び戻される事となった。
高校卒業と共に家を出、その後殆ど家には寄り付かずに過ごして来た忍にとって、当時、家族は、と言えば父の和也とはごくたまに電話で話しをする、程度のものだった。
独身寮から独身寮への転居。疎遠となっていた実家には、落ち着いてからこちらに戻った事を知らせれば良い、と思っていた。
あの時、美羽に何が起きていたか、など忍は知らなかったのだ。
福岡から戻ったその日、忍は内科の医局を、挨拶がてら、と訪れていた。
日曜日の正午だった為、教授はおらず、スタッフの数も平日よりは手薄であろう事は分かっていたが、それにしても人が少なかった。
ナースステーションにいた忍を見つけたベテランの中年の看護師が声を掛けた。
「あら! 緒方先生!」
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