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すっと手を伸ばした奈緒は忍の車のバンパーに触れた。
もう冷たくなっており、随分と前にここに停められた事が窺われた。
寝てるのかしら、と考えた奈緒だったが、美羽は? と直ぐに考えた。
何か、不穏な違和感が奈緒の胸を横切り急いで家に入ろうと一歩踏み出した時だった。
玄関の、格子の入った磨ガラス仕様の引き戸の向こうがパッと明るくなり、廊下に電気が点いた事が分かった。
家に入った奈緒が、廊下の奥に見た彼らは、何事も無かったかのように向き合い立っていた。
そう‘何事も無かったかのように’。
彼ら――忍と美羽――の間に何かがある。
それは女の勘。直感だった。
奈緒は再び窓の外を見た。
風にゆらゆら揺れる曼珠沙華が目に付いた。
その花の影に亡くなった姉の儚げな姿がチラつき、胸につかえる滓のようなものを感じた奈緒は視線を手元に戻した。
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