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一瞬、焦ってみせた美羽だったが、黒板に書かれた譜を瞬時に頭に入れた。
そして右手を口元に当て考える仕草をしながらゆっくりと教壇前に置かれたグランドピアノの前に座った。
すぅ……と息を吸い込んだ美羽は、ゆっくり正確に、今頭の中で作った音を奏でていった。
重なり合う音が美麗な調和を見せる美しい和声。
黛が与えた課題、ドビュッシーの流麗な旋律を思い起こさせる音の重なりに、講義室が静まり返った。
美羽が最後の和音を弾き終えると、黛がパチパチと手を叩いた。
「お見事。さすがですね」
褒められ、照れる美羽は、人差し指で軽く頭を掻いた。
そんな彼女に笑顔の黛は言った。
「窓の外を見ていてもちゃんと僕の講義は聞いていてくれたみたいだね」
「やだもう」
美羽は両手で顔を覆い、講義室がドッと湧いた。
「どうもありがとう、戻っていいよ」
優美に微笑む黛に、ピアノの前に座っていた美羽は、はい、と立ち上がった。
他の学生達は、再び課題に取り組み始めていた。
「ああ、緒方さん」
席に戻ろうとした美羽を黛が呼び止めた。
美羽が振り向くと、彼は言った。
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