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「先生の笑顔、俺にはいつもムリしてるようにしかみえないから」
どうしてこの子は――? 香織の顔から笑顔が消えた。
なにを言ってるの、と、ごまかす事も出来なかった。
いつも、冷たく光るような目をしている子だった。
しかし、その瞳の奥に不思議な熱がある、そんな風に思っていた。
香織の胸が込み上げる熱いもので溢れかえる寸前だった。
誰にも言えない胸の内。
悲鳴をあげそうな心を必死に抑え込み、笑顔を守り通してきた。
生徒の為に。
明るく振る舞う自分の心は、誰も気づく事は無く。
それは友人も家族も、そして夫も。
それを――。
「いつも、悩みや不安を聞いてもらいたくて私のところに来てくれる生徒の前で、私が暗い顔や辛そうな顔なんてしていられないでしょう……」
ひと回り以上も年下の少年に自分の内面を見抜かれた動揺からか、言葉の末尾は掠れていた。
視線を逸らし俯いてしまった香織に忍は。
「大変なんですね……」
その短い言葉から伝わる温もりは、とても14歳の少年のものとは思えぬものだった。
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