秘め事 #2

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 忍の重い言葉が香織の心に染み渡る。 交わした約束は数年前の再会の時だった。  香織の労苦は、その家庭にあった。 彼女は市内でも有名な老舗呉服屋の嫁だった。 厳しい義理両親と共に暮らしながらも、仕事だけは、と続けていた。 しかし子供が生まれた事を機に仕事を辞め、追い詰められていった彼女はキッチンドリンカーとなっていたのだ。 アルコール中毒患者として運ばれてきた香織と再会した忍は、彼女が置かれた環境を熟慮した上でこう言った。 ――もうそんなに頑張り過ぎないでください。 僕と約束してください。自分を大切にすると。  あの時は忍はまだ研修医だった。 その彼が今、一人の立派な医師として香織の目の前にいた。 布団からそっと顔を出した香織に、忍は優しく微笑みかけた。 「でも、そんな患者さんと対峙した時に一筋の光をなってくれるのが、家族です。 助けてください、と懇願する家族の存在なんです。 先生には、あんなに大事にしてくれるご主人と、お子さんがいる」  昨夜運ばれてきた時に、泣いて傍から離れない家族がいた、と忍は賢吾から聞いていた。それは、数年前も同じだった。
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