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「そんな……」
フワリと響いた綾子の言葉に賢吾はどう切り返して良いのか分からない、といった戸惑いの表情を浮かべ頭を掻いた。
そこから彼の不器用な性格が見て取れた。
常に、有望株として忍と並び称されてきた賢吾。
能力は忍に決して引けを取らない。
そして、容姿も。
ただ、性格は好対称と言ってよかった。
何事にもスマートだがその内面を誰にも覗かせない一面を持つ忍に対し、賢吾はざっくばらんで分かりやすい。
竹を割ったような性格は非常に外科医向きだ。
綾子の父である心臓外科教授の辻勇蔵(つじゆうぞう)は賢吾の能力を誰よりも高く買い、彼を自分の元に置きたがっていた。
しかし賢吾は、当時はまだ忍が心臓外科に進むと考えていた事もあり、自身は脳外科に進んだ。
賢吾は照れ隠しにポケットからタバコを取り出しくわえたが、ライターがなかなか点かない。
それを見ていた綾子は、どうぞ、と自分のライターで火を点けてやった。
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