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すみません、と一吸いし、煙を吐き出した賢吾は恐縮頻り。
そんな彼を見ながら、いいえ、と微笑んだ綾子もタバコをくわえ火を点けていた。
「俺は当直だったけど、綾子先生は当直ではなかったんですよね。
仮眠はちゃんと取ってますか。
大丈夫ですか」
心配そうに聞く賢吾に綾子は。
「大丈夫。家も近いから明け方帰ってちょっとだけ寝たから。
館山君の方が夜通し働いてるじゃない」
「俺はもう上がりですから」
煙に目を細めながら賢吾は笑ったが、綾子の顔が少し疲れて見えたのが気に掛かっていた。
「あのクランケの少女はどう?」
ゆっくりと煙を吐き出した綾子が聞く。
賢吾の顔が急に精悍な医師の顔になった。
「厳しいでしょうね……」
煙と共に思い口調で答えた賢吾は、静かに続けた。
「どちらにしても、頭蓋骨の欠損が広範囲だから、人工骨の形成術をしなければいけない……」
そう……と綾子も神妙な表情になった。
「胎児……25週くらいだったわ」
賢吾の顔が苦しげに歪んだ。
綾子も重く沈みそうな心を支えようとタバコの煙を吸い込んだ。
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