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美羽の問いに、フッと笑った忍が答える。
「迷惑だったか」
忍の流し目を受けた美羽は飛び上がらんばかりに胸を跳ねさせた。
恥ずかしさにサッと逸らせた視線を車窓に向けた美羽は、ぼそりと言った。
「う、嬉しいですよ。
嬉し過ぎて驚いたの。
だから……」
そんな美羽の様子に忍がクスリと笑った時、信号が赤となり、車が停まった。忍は美羽の手に白い封筒を渡した。
「今日はこれを美羽に渡そうと思って迎えに来た」
渡された封筒を見た美羽は忍の横顔を見上げた。
「これは?」
「開けてみろ」
細い長方形の横型封筒。
何かのチケットが入っている事が窺え、美羽の胸に、淡い期待のようなものが膨らんだ。
震えそうな手で封筒を開けると、予想通り、チケットセンターで印字されたと思われる券が2枚。
その内容を見た美羽の動きが止まった。
何と言って良いのか分からぬ美羽は、封筒から出し掛けたチケットを凝視したまま、固まっていた。
その公演とは。
「美羽。今、美羽の中に残っている‘未練’を、それで断ち切れないか」
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