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「俺が、一緒に、美羽の隣で聴いてやるからって言ったら、聴けるか」
「一緒に……」
美羽は、2枚のチケットを握り締めた。
「うん、聴ける。
ちゃんと、向き合う。
お兄さん、一緒に聴いてくれるんでしょう」
ハンドルを握ったまま、ちらりと美羽に視線を送り、ああ、と頷いた忍の目が、外から射し込む外灯の光で優しく柔らかに見えた。
兄の深い‘想い’に熱くなる胸に、曇る視界。
恋しさに、愛しさに、今すぐにでも忍に触れたい欲求が美羽の胸にこみ上げる。
伸ばしそうになる手を胸に当てて堪えた美羽は、深呼吸で自身を落ち着け、再びチケットに視線を落とした。
「でもお兄さん……こんなすごいチケット、どうやって買ったの?」
この公演のチケットは、販売開始前から予約をしなければ買えないと、同じピアノ科の仲間や管弦打楽器科の学生達が半年前から話していたのを美羽は聞いていた。
美羽が見つめる先で、忍の横顔は微かに苦笑を浮かべたように見えた。
「担当していた患者さんから譲られた」
言いにくそうに、忍は答えた。
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