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「美羽……今もピアノ、弾いてる?」
静かな、けれどもしっかりとした低い声が、重苦しい沈黙を破った。
美羽はそっと顔を上げた。
そして、うん、と小さく頷いた。
「弾いてるよ……音大生だもの」
そうか、と大河は目を細めた。
「美羽のこと、大介じいさんがいっつも自慢してたよな」
「おじいちゃんたら……そうだったね」
大河のさりげない思い出話に、美羽の表情がやっと少し和らいだ。
大河は、彼女のそんな顔に胸踊る感覚を覚えた。
美羽の笑顔がほんの少しでも見たかった。
「うちの美羽は将来ピアニストだ、って本家に来ると決まって言ってて」
小さな頃から幾多ものコンクールで賞を取っていた美羽はピアノの上手なお嬢さん、として地元では有名だった。
行く先々で自慢して回る祖父の大介を、美羽は恥ずかしがって必死に止めたりもしていた。
そんな話しをする大河に美羽は頬を赤らめた。
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