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「おじいちゃん、恥ずかしいったらなかったわ」
「それでいて、大介じいさん、兄さん達にはすげー厳しかったよな。
いっつも喧嘩していた気がする」
「そうなの、特にあっちゃんが……」
美羽と、大河の間に流れる時流が、ゆっくりと昔に戻り出した。
二人の間で共有する、幼い日の懐かしい思い出。
時空は二年前を飛び越える。
この二人の間にあった張り詰めていた空気が、やっと柔らかな居心地の良いものへと変わり始めた。
大河の巧みな空気感作りに美羽の心はやっと解れ始めたようだったが、わだかまりが消えたわけではない。
それは、まだぎこちなさが残る美羽の笑顔に表れていた。
二年も経ったのに、美羽を忘れられなかった大河。
それは、あの時、美羽が大河に言った言葉にあった。
「美羽、あの時どうして……」
互いに思い出したくはない記憶も、今振り返らなければ、いつ清算できる。
美羽は、怯えた色が挿しこんだ目を、しかし、逃げることなく大河に向けた。
大河は、彼女のその姿勢に勇気を出して、踏み込んだ。
「あの時どうして、俺を責めてくれなかった?」
美羽は、少し思い出すような表情を見せた。
大河に‘抱けない’と突き放されたあの時、美羽はそっと大河の傍を離れながら言った。
――ごめんね、大河。
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