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「なんて言ったら聞こえがいいけど、別れてから、じわじわとショックと怒りがきてね。
でも時間が経ってしまっていたら今さらでしょう。
何も言えなかった。
でも、会って文句の一つも言ってあげればよかったね」
美羽の胸のそこにあった氷の塊が、今すーっと解けてゆくのを感じた。
自分だけじゃなく、大河もまた苦しんでいた。
今なら、あの時の大河の事を汲み取ってあげられそうだった。
そう、大河は、あんな事を平気で言える男じゃなかった筈だから。
「美羽」
名を呼ばれ、美羽は大河と視線を合わせた。
優しい目に、瓦解した気流が二人の間に流れ込むのを感じた。
「あの時は、ほんとにごめん」
そう言い、頭を下げた大河に、美羽はそっと手を伸ばし、肩にふれた。
「顔、上げて。
私も、大河を苦しめて、ごめんね。
でも、ありがとう」
大河はハッと顔を上げた。美羽が、柔らかな笑顔を見せていた。
「大河は、私に色んな思い出くれたんだもん」
どうしてこんな言葉が言えるんだ、と大河は天井を仰いだ。
こぼれてきそうな何かを、必死に抑え込む為に。
少しの間、そうして気持ちを落ち着けた彼は、再び美羽に視線を向けた。
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