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美羽の言葉に、一瞬黙した電話の向こうの相手は、クックと笑い出す。
「強迫観念、の方が近いな。
電話しないといけない、という」
「ひどい、その言い方」
冗談だ、と言い、ハハハと笑う忍の声に、美羽の胸が熱くなった。
「会いたいの、会いたくて……」
言葉を詰まらせた美羽に、忍は優しく言った。
「今夜は無理だな。我慢しろ」
柔らかく、胸の底に染み渡る温かな低い声。
美羽は、列車の振動音だけが響き渡る静かな廊下で泣くのを堪え、うん、と頷いた。
「何かあったか」
「え、どうして?」
「いや、声のトーンがいつもと違う」
「声?」
美羽は少し考えた。
今夜の話はきちんと伝えたい。
でも、それは会って触れ合って、目を見てしたい話。
「今度、お話しするから聞いて」
「ああ」
短い返事に、兄の優しさが詰まっている。
美羽の心が愛しさに震えていた。
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