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「電車の中か?」
「うん、レッドアロー」
「そうか。気を付けて帰るんだぞ」
「うん」
電話は短く。
いつもそう。
でも、また会える。
今夜の事は、その時に話そう――。
家に戻ると、祖父と父はまだ仕事から戻っておらず、奈緒が一人、ダイニングのテーブルでパソコンを開き、フラワーアレンジメント教室関係の事務仕事をしていた。
「お母さん、ただいま」
複雑な想いを胸に抱え、美羽がそう言うと。
「おかえりなさい。大河君とは楽しく過ごせた?」
美羽と大河の事情など、何も知らない奈緒はパソコン仕事の手を休める事無くそう聞いた。
美羽は、ぐっと込み上げる感情を抑え込み、答えた。
「楽しく……過ごせたよ。
久しぶりに会えて、よかったわ」
どんな形であれ、ずっと二人の間にわだかまっていた滓が流された事は確かだった。
しかしあの引合された席に、奈緒のどんな目論見があったのか。
彼女の画策が、美羽にとって良い事とはとても思えなかった。
大河と会わせてくれてありがとう、と口にする気にはなれなかった。
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