茶柱

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「お母さん、どうして大河と私を会わせようと思ったの」  奈緒の手が止まった。 その時初めて彼女は顔を上げて、美羽を見た。 表情の読めない美しい顔が、ダイニングの蛍光灯の下で揺らめいた。 ゾクリとした美羽に、奈緒が言う。 「美羽を大河君にもらってもらおうと思ったからに決まってるじゃない」  一瞬何を言っているのかわからなかった。 美羽は大きな目を見開いて、瞬きもせずに奈緒を見ていた。 「大河君は、今も美羽の事が好きらしいわよ。 そう言わなかった?」  美羽は、喉がカラカラに乾いていくのを感じながら、声を絞り出した。 「大河は言わない、そんなこと」  人の心を踏みにじっている。 母は、何がしたいのだろう。 美羽は、どきどきと加速していく鼓動を必死に呼吸を整えることで鎮めようとしていた。 「まあ、そうなの。しょうがないわね。 でも美羽には大河君みたいな人が一番と思うの、だから」 「私、大河とはもうそんな関係にはならないから!」  美羽は渾身の力を振り絞ってそう言った。 「私は今好きな人が」 「いい加減にして頂戴!」
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