茶柱

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 幼い頃から自らの心に植え付けてきた、姉に対する歪んだ心。 全て、自分が生きる為のエナジーにしてきたものを、今さら捨てられるわけがなかった。  酒がまわった奈緒の視界が揺れ始めていた。 しかし、それでも彼女は呑むのをやめず、尚もグラスにブランデーを注いだ。  奈緒の、三人息子。 その中で、忍だけは特別だった。 その愛息にみっともないほど固執するのは、奈緒の内にある、自分と姉と夫が複雑に絡み合う事情があるからだ。 「あなた……」  不意に、奈緒はここにはいない夫を呼んだ。 三十年も連れ添った優しい夫は、本当に自分を誰を愛してくれていたのだろうか。 自分も、本当に彼を愛していたのだろうか。 そんな事を考え始めた時、奈緒の胸がズキンと痛んだ。  婿養子の夫は、舅である大介にどんなに辛く当たられようと、文句一つ言わず、すっと奈緒に連れ添ってくれた。 奈緒の為に、この家に尽くしてくれた。 賢く頭が切れる上に、辛抱強く包容力のある、本当に大きな男だった。
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