茶柱

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 その夫、和也は、奈緒が姉の紗羽から奪った男だ。 もしかしたら彼は自分ではなく、本当は紗羽の方が好きだったのではなかろうか、と疑心暗鬼のまま奈緒は三十年という年月を過ごしてきてしまった。 今さら確かめる事もできない。 真相を知るのが怖い。 そう考えた時、彼女はぶるっと身震いした。  美羽の父は? それは、美羽が生まれてからずっと奈緒の中で絶えず燻り続けてきた疑惑。 もしも、奈緒の疑念が真実ならば、戸籍上のみならず、血縁上でも忍と美羽が結ばれる事は決して許される事ではない。 しかし、それ以上に許せない心情が奈緒の中には渦巻いていた。  容姿は違えど、父親の性質を一番受け継いでいる息子、忍。 奈緒の、忍への異様な痼疾は、和也の愛に対して絶えず不安を抱えてきた彼女の心の現れ。 しかし、その忍の心も紗羽が大半を占めている。
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