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「いや、まったく俺の耳には入ってないぞ」
そうか、と言いながらタバコをくわえ直した諏訪は、話しを続けた。
「入ってなくて当然だ。
俺はたまたま漏れ聞いただけだし、まだ誰も知らない話だろう」
賢吾は、ただならぬ気配を察し、胸騒ぎを覚えた。
「どんな話だ。まさか……」
「ああ、倫理委員会が水面下で動き出しているみたいだ。
K省が噛んでるみたいだぞ」
院内隋一の情報通で、上層部とも精通し、常にアンテナを張っている諏訪らしい話だった。
倫理委員会。
K省。
その言葉に、賢吾はぞくりと鳥肌が立つ。
何処かで何かが起きている。
「うちの母体になっているのはB省だ。
K省の摘発でも、よほどのものじゃなきゃ握りつぶされるか骨抜きにされるだろ。
前のカテーテルの時みたいに今回もうやむやにされて終わりじゃないのか」
それがな、と言いながらタバコを灰皿でもみ消していた諏訪は思案しながら言った。
「今回は、ちょっと根が深そうだ。新薬関係なんだよ」
賢吾は苦しげに顔を歪めた。
製薬関係の不正は許しがたいものだ。
特に新薬に関しては臨床のデータが少ないだけに、処方する医師にとって慎重にならねばいけないものなのに。
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