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循環器内科の医師である忍が、何故ここ、眼科の病棟に来たのか。
それは、この老人が、緒方先生を呼べ、と騒ぎ出し、お手上げと判断した眼科のナース達が忍に助けを求めたからだった。
要するに、忍はこの老人に呼ばれたのだ。
威張り散らす事が芯まで染み込んでしまっているようなこの高慢ちきな老人、熊川大治郎は、代議士だ。
忍との縁は、二年前、心不全で倒れ、循環器内科に運ばれた時からだった。
現在の主治医は、教授の原の筈だったのだが。
忍はため息をつくと、応接セットのテーブルの上に目をやった。
そこには手術や投薬、処置の説明、施術の同意署名を求める書類が数枚置かれていた。
忍は書類を手に取り、目を通した。
「糖尿病性網膜症、ですか」
「そうだ」
黙っていた大治郎が、口を開いた。
「もう左目はほとんど見えん。
右目も怪しい。
右目の網膜の手術をすれば、見えるようになる、と言われて手術を決めた」
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