茶柱 #2

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 後部座席に座る忍は、まだ四歳になったばかりの幼い美羽を膝の上に抱いたまま、顔を手で覆い、動かなかった。 その指の隙間から、零れ落ちる涙が見えた。 「おにいちゃん、ないてるの? どこか、いたいの?」  不安に思った美羽はあの時、そう聞いた。 その問いに兄は何か答えていた。 幼かった自分には少し難しい言葉だったから、記憶は埋もれたままだったのだ。 美羽は、あの時の忍の言葉を繰り寄せようとこめかみに手を当てた時、甘く響く声が、耳朶に蘇った。 ――悔しいんだよ。  それだ、と、美羽はのろのろと起き上がった。 兄はあの時、確かにそう言った。 何が悔しかったのだろう。 美羽は、カーテンを閉めていなかった窓を見た。  その外に拡がる茶畑は夜の帳が落ち、闇に呑まれ真っ暗だった。 空には細くかけた月が浮かぶ。 美羽は、その月をぼんやりと見つめながら、考えていた。  あの頃、まだ母が生きていた。 実母の記憶はあまりなかった美羽だったが、入院していた母の元にいた自分を、兄が幾度か迎えにきた事はうっすらと覚えていた。 あれは、その帰りだったのではないだろうか。 兄と母、紗羽との間で、どんな会話が交わされたのだろう。 なにがあったのだろう。 兄は、何らかの無念に、涙を流す程胸を痛めたのか。
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