茶柱 #2

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「私の知らないお兄さんが……いたの」  誰かの為に涙を零す兄の姿など――たとえ少年の頃であったとしても――思い出したくはなかった。  兄が医師となった理由が、今分かった。 少なくとも、自分は兄の人生に何の影響も与えてはいない。 それはきっと、これからも。  今は亡き、記憶もおぼろげな実母が今頃になってこんなにも存在感を放つことになろうとは。 美羽は胸に込み上げる言いようのない悲しみと辛さ、苦しみに、嗚咽を漏らし、手を胸に当てると再びベッドに身を横たえた。  いつの間にか眠ってしまっていた美羽は、廊下からの物音に目を覚ました。 父の声が聞こえたようだった。 ベッドに横になったままの美羽がサイドテーブルの時計を見ると、日付が変わったところだ。  顔を手で軽くこすった美羽はゆっくりと起き上がった。 お化粧を落としていない、風呂にも入っていない。 とりあえず顔を洗おう、とベッドからのろのろと降りた美羽はドアの方へ行った。  物音がした廊下の様子を窺いながらそろりとドアを開けると、ため息をつく父、和也が向かいの寝室から出て来た。 「お父さん、どうしたの、こんな時間に……」  和也は、ワイシャツにスラックス姿だった。 ついさっき帰ってきた、といった出で立ちの父に、美羽は聞いた。
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