茶柱 #2

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 荒れた部屋の片付けに勤しむ父。 それを見る美羽の胸は、父に泣いてすがりたい気持ちで一杯になっていた。 幼い頃から広い心で見守ってくれた、大きな父。 彼なら、自分の全てを聞いてくれるだろうか。 美羽は、小さく頭を振った。  今は父に聞ける事を聞くのだ、と美羽は手を休める事なくさり気なく和也に話し掛けた。 「お父さん、私のお母さんって、どんな人だったの?」  忍の初恋。 奈緒の衝撃的な告白は、美羽と忍の関係を断絶させる為だけの方便とは思えなかった。 自分の知らない母の姿を知る事がこんなに怖いとは。  美羽の声が微かに震えていた。  そんな美羽の想いなど知らない和也は、両手に酒瓶を持ち、キッチンに入って行きながら言った。 「そうか、美羽は、覚えていないのか」  父の背中を見る美羽は、うん、と答えるのが精いっぱいだった。
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