茶柱 #2

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 まったく覚えていないわけではない。  子守唄を歌ってくれた優しい声、抱きしめてくれた柔らかく温かな腕の感触の記憶は、美羽の身体の一部となっている。 ただ、母の香りは、薬剤の匂いにかき消されてしまっていた。 優しい子守唄に、心電図の電子音が時折混じってもいた。  そして、顔は――記憶の中の視野に残る母はおぼろげで、遺影の中で微笑む母と結びつくことはなかった。  カウンター向こうのキッチンで、グラスを洗い、瓶を片付ける和也は、ゆっくりと口を開いた。 「身体は弱かったけど、芯の強い、優しい子だったよ」  和也の表情がいつにも増して柔らかく見え、美羽はドキンとした。 どこか、特別な感情が見え隠れしているかのように思えた。 「お父さん?」  胸に湧いた小さな不安。 美羽が父にその先を聞こうとした時、洗い物を終えた和也が手を拭きながらキッチンから出てきた。 柔らかに微笑み掛け、言う。 「美羽、美味しいお茶を入れてくれないか。 美羽が淹れてくれたお茶が飲みたいんだ」
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