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茶柱 #2
美羽は紗羽の子だ。美羽が自分から奪うものは、紗羽が奪うのと同じ。
紗羽は、亡くなって尚、自分から大事なものを奪うのか。
「紗羽は……どこまで私を苦しめたら気がすむの?」
奈緒の頬に涙が伝った。
奈緒の不幸は、すべて自身の歪んだ心がもたらしたものである事に、彼女自身が気付いていれば、違ったものになっていたのかもしれなかったのだが――。
母から衝撃の話を聞かされ自室に戻った美羽は、そのままベッドに倒れ込んだ。
美羽の意識の深淵に、おぼろげに残っていた記憶が蘇ってきた。
まだ幼女だった自分を抱く兄が、泣いていた記憶が。
場所もシチュエーションも、うすぼんやりとしていた美羽の記憶の風景。
そうだ、どこかに行った帰りだった、とベッドに横たわっていた美羽は閉じていた目を開けた。
真っ暗な部屋の中に、頼りなげな三日月の月明かりが射し込んでいた。
車の振動、ビニールのシート、窓からのオレンジの光が兄を照らす。
あれは、タクシーの中だった。
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