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精悍な顔の中の、誠実な瞳。
真摯で実直な青年は、綾子の心を確かに揺れ動かしていた。
館山賢吾に食事に誘われた綾子は、即答はできなかったが、前向きに捉えていた。
しかし、お節介な‘おじさま達’のせいで、綾子と賢吾の間にはしこりのような見えない隔たりが出来てしまった。
顔を合わせても何となく話しづらくなっていたのだが、昨夜、外来患者も見舞客もいなくなった夜の病棟で、綾子と賢吾はバッタリ出会った。
明かりを落とし、シンと静まり返った外来棟と病棟を繋ぐエレベーターホール。
逃げるような素振りを見せてしまった綾子に、昨夜、賢吾は男らしく迫った。
軽く会釈だけをして、その場を去ろうとした綾子の腕をすれ違いざま、賢吾が掴んだ。
「俺じゃ、だめですか」
間引きして灯る蛍光灯の光の下、賢吾の凛々しく逞しい精悍な顔が、振り返り、見上げた綾子の目に映った。
真っ直ぐに見つめるその黒く澄んだ真摯な瞳に綾子は一瞬、心を持っていかれそうになった。
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