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午前から午後に跨いで行われていた手術を無事終え、オペ室を後にした館山賢吾は、ナースステーションにいる看護師とPHSで通話しながら廊下を歩き出した。
萌葱色の上下のウエアに白衣を羽織り、風を切り颯爽と歩く長身の医師は人目を引いた。
すれ違う若い看護師達は恥ずかしそうに会釈していた。
「じゃぁ本田さんの家族には俺から話しをさせてもらうから、あとで連絡いれる。
それから、先週アスピリン中止した田中さんの検査結果が今日の3時にそっちに上がっる筈だから確認しておいてくれ。
ああ、それと――」
救急棟と病棟を結ぶ渡り廊下に差し掛かった時、不意に窓の外に視線を向けた賢吾の歩が止まった。
通話口の向こうから「館山先生?」という声がした。
「ああ、やっぱ今はいい。
これからICUに寄るけど、すぐにそっちに行くから」
賢吾は窓の外を見たままPHSを切り、白衣の胸ポケットに入れた。
綾子先生……?
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