56人が本棚に入れています
本棚に追加
襖が勢いよく閉まり、部屋が静かになった。沈黙を、楓花のクスクスという笑いが破る。
「余計なこと、話しちゃおうかな」
美羽が、何のことだろう、と楓花の顔を見ると彼女は楽しそうに話し始めた。
「あのね、美羽ちゃん。大河ったらね」
楓花の顔が、弟を想う姉の顔になった。
「昨夜私のとこに電話してきて、美羽ちゃんの話しを始めたの。
美羽ちゃんが透析患者さんになってしまって、なかなか美味しいものを食べられてないんじゃないか、って。
美羽ちゃんがものすごく禁欲的な生活を強いられているように思っていたんでしょうね。
だから、どうしても美味しいもの食べさせてやりたいんだって。
姉ちゃんならできるだろって」
今夜、こうして誘ってくれた裏に大河のそんな気持ちがあった事など、知らなかった。
美羽は胸に締め付けるような痛みを感じた。
自分は、大河のその思いやりに、ただの友達として応えてよいのだろうか。
そんな疑問がフッと美羽の中に浮かぶ。
美羽の心の中の問いに答えるように、楓花は静かにゆっくりと思い出すように言葉を継いだ。
「大河はずーっと小さい頃から美羽ちゃんにぞっこんだったものね」
ああ、どうしよう、と両手で顔を覆いたくなる感情を、美羽は困惑の笑みを浮かべることで抑え込んだ。
「大河は、今はそんなことないです、きっと」
だって、これからは友達としてって、大河が言ってくれたんだもの。
その言葉は、大河の姉を前にしてはとても口に出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!