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我に返った楓花は美羽に詫びると、改めて料理の説明をし、ゆっくりしていってね、と部屋から出て行った。
「ごめんな、美羽」
静かになった部屋で、大河がぽつりと呟いた。
美羽は、大河を見た。
「どうして、謝るの?」
美羽に見つめられ、大河は困ったように頭を掻いた。
「いや……騒がしい姉貴で、ってこと」
そんなことないよ、と美羽は笑っていたが、その表情は大河の胸を締めつけた。
「食べ終わったら、帰ろう。家まで送るよ」
美羽はうん、と頷き微笑んだ。
しかし、美羽の笑顔が大河には哀しく泣きそうに見えた。
大河の胸に、柔らかな、けれど鋭い棘が刺さったような痛みが走る。
自分は、美羽の想い人を今知ってしまったのかもしれない。
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