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楓花が案内してくれたのは、平屋の長細い料亭の奥に位置する個室だった。
開け放たれた障子の向こうには、上品な明るさで灯された庭が夜の闇の中で松や池、花々をぼんやりと浮かび上がらせていた。
その風景は一枚の絵のように静かな落ち着いた和室に花を添えていた。
ごゆっくり、と楓花が部屋から去り、二人きりになると、美羽はきょろきょろと落ち着かなさそうに部屋を見回していた。
そんな美羽を見てクスと笑った大河はおしぼりで手を拭きながらゆっくりと話し始めた。
「姉貴はここで薬膳専門の料亭をやってるんだ」
「じゃあ、ここは楓花お姉ちゃんのお店?」
美羽が驚いたように言うと、大河が、いや、と苦笑いした。
「正確に言うと、お姑さんのお店」
「お姑さん?」
「ああ、姉貴は気が強いから、お姑さんと壮絶なバトルの末、この店を自分の思う通りの店にしちまった。
とは言っても、傾きかけていたこの料亭を姉貴が立て直したと言っていいと俺は思ってるけど」
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