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会釈した忍がドアを閉めた瞬間、時が止まった真空の空間のようだった部屋が時流を取り戻す対流が起きた。
暫しドアの向こうに消えた教え子の残像を眺めていた原は、深呼吸をした。
運動をしたわけでもないのに、息が切れる感覚。
体中の筋肉という筋肉が硬直していたのだ。
これは、自らの精神に一瞬も気を抜くことのできない緊張を強いていたということだった。
ゆっくりとした動作で立ち上がった原は窓の外を見た。
少し前まで夕焼けに染まっていた風景は一変し、外は一面薄闇に染まり、ぽついぽつりと灯る構内の外灯が門まで続くのが見えたが、次第に濃くなっていく闇を見詰める原の目はそのずっと先、遠くを見つめ、動かなかった。
原には、自らの意図することが忍にはお見通しだったであろうことは、分かっていた。
しかし相手が相手なだけに、隙を見せるわけにはいかなかった。
緒方忍は、対峙した相手のほんのわずかな綻びを、瓦解に繋がらせる力を持っている。
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