消したい過去、消えない記憶

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 辻は、誰もが認めるオペの腕を持ち、心臓外科のエースだった。 今回の執刀医も彼になるだろう、と言われていた。  誰もが辻の言葉に驚き、顔を見合わせた。 自他ともに認める能力と実力を持つ辻は、助教授でありながらすでに教授達をも動かす発言力を持っていた。 「辻君は、このクランケを切ってみたいと思わんのかね?」  心臓外科の教授が、まるで辻にお伺いを立てるかのように聞いた。 辻は、フンと鼻で笑った。 「切りたい、切りたくない、と聞かれれば切りたいにきまっています。 でも、循内の主治医が内科治療で頑張る、と言っている以上それを強行に渡せ、とは言えないでしょう。 不必要なオペはしたくない。それだけです」  そう言い放ち、不敵に笑った辻はそのままカンファレンスルームから出て行ってしまった。  結局、辻の発言が大きな影響力を及ぼし原の意見は受け入れられ、緒方紗羽の手術は回避された。
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