消したい過去、消えない記憶

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 原からカンファレンスの結果を聞かされた紗羽は、笑顔で答えた。 「私は先生を信じていますから」  一点の曇りもない紗羽の澄んだ瞳は、見る者を魅了する。 病気で苦しむはずなのに、素直で、疑うことの知らないピュアな心を持った彼女を見た時、原は心に誓ったのだ。 「オペをしなくとも、君の身体に傷をつけなくとも、君がちゃんと大人になれるよう、僕の持てる力を駆使します」  あの時初めて、言い切ることができたのだ。 医師として、本当に心の底から、真正面から患者と向き合う事が出来た。 そして、その言葉はしっかりと実を結び、彼女は手術をすることなく退院という運びになったのだ。  紗羽の回復を見届けた後しばらく地方の分院を巡った原は助教授となって戻ってきた。 その時再び紗羽の主治医となったのだが、彼女はすっかり大人の女性となっていた。  原の診断の正しさを裏付けるように、紗羽は健康体とは言えずとも、しっかりと生きていた。 そんな彼女は笑顔で原に言った。 「先生を信じていましたから」
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