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都心から少し離れた郊外に、武蔵野の自然を残す緑豊かな鎮守の杜がある。
その森に囲まれる歴史ある天台宗の寺は荘厳な佇まいを見せていた。
この界隈は寺の歴史的建造物を堪能するだけではなく、自然を楽しめる散策でも知られており、参道には数々の店が立ち並び、参拝の客でにぎわう。
境内の周りに拡がる森は水に恵まれ、水車も回る。
沢のせせらぎが参拝者達の心を癒していた。
ご本尊が祀られた本殿でお参り済ませた忍と美羽は、森の中へとゆっくり歩きだしていた。
境内を離れ、森に入れば行き交う人も少なくなる。
人の気配の薄れた森は、澄んだ空気が広がっていた。
「美羽、手を」
舗装されていない、自然のままの道は、木の根がところどころに張り出している。
足元の悪さに、美羽を気遣う忍はさりげなく手を差し出した。
美羽は指が長くしなやかな、それでいて大きな手をそっと取った。
ひんやりとした心地よい感触が美羽の全身に伝わり、胸を優しく締め付ける柔らかな感覚を覚えた。
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